あの日から一週間以上経ちました。
なんだか、今までにない感覚が身体に残りなかなかばんえい記念に関して筆が進みませんでした。
番外編そして三日目
この日だけは、全国からファンが集まるばんえい記念。私が知っているだけでも、福岡・京都・和歌山・愛知…そして、東京からわんさか。
農林水産大臣賞典 第50回ばんえい記念
負担重量 牡馬1000kg
ファンだけではなく、関係者にとっても特別な競争。たまたま翌日生産者の奥様に話しを聞いたのですが「一週間前からドキドキソワソワ、そして当日は吐きそうになるくらいの緊張感。だから怖くて見に行けないさー」と。
出るだけでも栄誉、そして完走する事の難しさ。1トンを超えるばん馬達にとっても1000kgの荷物はそれほどの重量。みんなそれが分かっている。だからこのレースの直前は空気が変わる。
固唾を飲んでレースが始まるのを待つ、というのがピッタリなのでしょうか。だからこそ「ばんえい記念は現地で味わって下さい」と口酸っぱくPRするのです。
パドックに登場して来た主役達は綺麗に馬体を洗ってもらい、素敵なおめかしをしています。厩舎の方々の大一番に送り出す我が子達への最大の愛情が伝わります。
陸上自衛隊による素晴らしい生演奏からレースがスタート。馬場が0.9%と重いこともあり、展開は慎重に進んで行きます。
駆け引きというより、第二障害を上げる体力を如何に温存するか、そういった感じだったのでしょうか。何回も何回も刻み第二障害へ。息を入れてじっくりじっくり溜めて仕掛け時を待ちます。観ている我々の緊張も最高潮に。
ドゴォォーン!っと一気に天板まで脚が上がったコウシュハウンカイ。間近で観ていた私はビックリしました!天板で一呼吸置きたかったんじゃないかな匠さん、と私は思いましたけど、その勢いのままトップ抜け。次の子が降りるまで30m位?の差がついていました。でも、このままで終わらないのがばんえい記念。ここから壮絶なデットヒートが繰り広げられます。
やっぱりオレノココロは強かった。そして高重量ならフジダイビクトリー。サクラリュウも力をつけた。驚いたのはソウクンボーイ。完走できるかの心配なんてなんのその、差のない五着。素晴らしい!!
そして、全馬完走となるまで見続け、応援するのがばんえい記念。
しかし、残念ながら今年は記録上では全馬完走にはなりませんでした。
残り20mでニュータカラコマが競走中止、そのまま天に召されてしまいました。
異変を知ったのはゴール前でコウシュハウンカイが三着になったのを見届けた辺り。悲鳴のような歓声があがり慌てて戻るとニュータカラコマが横たわっていました。ヒザ折りか?と思ったのですが、何やら様子がおかしい。
「単なるヒザ折りであって欲しい」イヤな胸騒ぎがしました。数分経って彼の様子を見てすぐに悟りました。でも、立ち上がって欲しい。今まで経験したことがない感情が湧き上がりました。こんな事は初めてです。
彼の死を覚悟した私はここから一歩も動くまい、と。例え重機で運ばれてゴール線を越えることになっても、拍手で送り出すまでは動いてはいけないと。
私は別にニュータカラコマの推しでもないし、関係者を知っているわけでもないです。ハクバオウジやハクバボーイのように仔馬時代を知っているとかそういうのでもないのです。
でも、なんだったんでしょう。自分でもわかりません。喪失感というか虚無感というか。これは一週間経ったいま、やっと落ち着きました。
とにかく、種を残せなかったのが悔しい。
私が競馬の仕事に携わるようになった辺り、丁度同じ時期に彼はデビューしました。仕事柄ばんえい競馬の写真を私は何十万枚と見て、触ってきました。
その中でもニュータカラコマって、すっごいカッコ良くて美しいんですよ。
ゴール前に浮かび上がる美しい筋肉。表彰式での凛とした姿。そして、優しい瞳。
絶対、絶対いい子を出すであろう、そう信じていました。
このレースで引退かも、とその日に聞いていました。
あと20m。あと20mだったのに。
メチャクチャ悔しくて悔しくて。
このところばんえいのオープン引退馬の急逝が続いています。キタノタイショウ・ホッカイヒカル・アオノレクサス…。ちょっと前ではテンマデトドケやニシキダイジン。ダイジンはそれなりにいい産駒を残せましたが…。
そんな中での喪失感なんでしょうか?よくわかりません。
私の知り合いはみんなそんな感情を持っていたみたいです。
競馬だし、彼らはアスリートであり経済動物でもある。そういうところも引っくるめて分かっているのにものすごい虚無感が私を支配していました。
初めてばんえい競馬を間近で観ていた社員と同行者達にはキツかったと思います。
まさか、この最高峰レースであるばんえい記念で、ガチガチのオープン馬がこんなことになろうとは予想だにしていませんでしたから。でも、全てを受け入れ、最後まで馬券を買わなければと奮い立って残り二レースに参加してくれたのは救いでした。本当にありがとう。
とにかく、この社員研修は楽しく、笑って笑って、食べて笑って、そしてばん馬達の真剣な走りを堪能してもらい、色んな事を経験した深い研修になったと思います。
最後に、弊社社員が「ばんえい競馬は元々好きだったけど、今回行って、間近で観てもっと好きになりました」と言ってくれたことが私にとっての最高のプレゼントになりました。
一日目、二日目のリポートは私のfacebookに投稿してあります。
コメントをお書きください